コラボレーションスタイルでは、創業以来、毎シーズン欠かさず発注し続けているネクタイがあります。フィレンツェのネクタイブランドAtto Vannucci(アットヴァンヌッチ)のセッテピエゲです。
私自身もまた、長年にわたりこのネクタイを愛用してまいりました。
アットヴァンヌッチを手掛ける加賀健二氏とは、その前身ともいえる「TIE YOUR TIE(タイユアタイ)」の時代から、もう20年以上のお付き合いになります。当時、南青山にあったタイユアタイのショップにもよく遊びに行きました。
加賀氏とは、ネクタイにとどまらず、スーツやジャケット、靴など洋服全般のこと、さらにイタリアやフィレンツェの話まで、実に多くのことを語り合ってまいりました。振り返ってみれば、その頃から現在までずっと変わらずセッテピエゲを愛用しております。
現在愛用しているセッテピエゲの一部
今回は、コラボレーションスタイルが創業以来選び続けているアットヴァンヌッチ、そしてブランドを代表するセッテピエゲの魅力について、実際に扱い、愛用してきた経験をもとにお伝えいたします。
Atto Vannucci(アットヴァンヌッチ)は、イタリア・フィレンツェで2011年に生まれたネクタイブランドです。
熟練した職人による伝統的なネクタイ作りを大切にしながら、単なるクラシックに留まらない、独特の色気と軽やかさを備えています。
1本1本ハンドメイドで仕立てられたネクタイを初めて手にした時、まず感じるのはその柔らかさです。実際に締めてみると、その印象はいっそう深まります。
柔らかく軽やかでありながら、スーツやジャケットに合わせると、Vゾーンには確かな存在感が生まれます。
クラシックでありながら、堅苦しくない独特のバランスが、アットヴァンヌッチの大きな魅力です。
ブランド名の由来は、イタリアのトスカーナにゆかりのある歴史上の人物の名から付けられています。
「Sette Pieghe(セッテピエゲ)」とは、イタリア語で「7つ折り」を意味します。
一般的なネクタイは、表地の内側に芯地を入れることで厚みや形を作ります。それに対して伝統的なセッテピエゲは、通常のネクタイの約2倍の生地を用い、それを折り重ねることで形を作っていきます。
さらにアットヴァンヌッチでは、アイロンプレスに頼らず、手仕事によって仕立てることで、ふんわりとした立体感と、スカーフのような柔らかな雰囲気を備えたネクタイに仕上げています。
実際に締めてみると、ふっくらとしたノットと美しいドレープが生まれます。
柔らかく、わずかに不均一で、整い過ぎていないにもかかわらず、スーツやジャケットに合わせると不思議なほどエレガントに映ります。
そこにセッテピエゲならではの色気があります。
セッテピエゲのネクタイは、マリネッラやステファノビジ、ブルガリなどのブランドでも作られていますが、アイロンプレスを用いず、手仕事の風合いを色濃く残すアットヴァンヌッチは、唯一無二の存在だと感じます。
アットヴァンヌッチのネクタイの生地は、一部のソリッド(無地)や布帛などを除き、毎シーズン、様々な素材でオリジナルの色柄が作られています。
イタリア・コモを中心とした複数の生地メーカーを使い分け、オリジナルの柄で織り上げられる生地は、他ブランドのネクタイと柄が重なることがほとんどなく、アットヴァンヌッチならではの価値を備えています。
また、「AZULEJOS(ポルトガルの装飾タイル画)」や「Les berges de la Seine(セーヌ川沿いの散歩道)」のように、シーズンごとにテーマが設けられ、そこからインスピレーションを得たストーリー性のあるコレクションも魅力です。
豊富なコレクションの中からコラボレーションスタイルの着こなしに合う生地を選び、長さや大剣幅などの仕様を決めることで、当店ならではのアットヴァンヌッチに仕上げています。
アットヴァンヌッチは年々取り扱い店が増えていますが、生地、モデル、仕様は店ごとに異なります。その違いに、それぞれの店の個性やこだわりが表れるところも、このブランドの面白さです。
コラボレーションスタイルでは創業以来、長さ150cm、大剣幅8.5cmのサイズでお願いしております。これは、かつてのタイユアタイで扱われていたサイズに近い仕様であり、私なりのオリジナルへのリスペクトとこだわりでもあります。
百貨店やセレクトショップでは、長さが短めに設定されている場合も多く、長さのあるアットヴァンヌッチのネクタイを求めて当店をご利用いただくお客様もいらっしゃいます。
・シルクジャカード
最も中心となる素材で、毎シーズン、生地や色柄の種類が豊富です。多くのお客様にお選びいただいております。
・シルクプリント
ジャカードよりも柔らかく、ふんわりとしたとろみを持つ、個性の際立つネクタイです。プリント生地でセッテピエゲを仕立てるブランドは多くなく、アットヴァンヌッチならではの魅力がよく表れます。
・モガドール
シルクコットンの定番生地です。しっかりとしたハリがあり、ノットが美しく決まる、ソリッドタイの人気素材です。
・ガルザ
イタリア語でガーゼを意味する、メッシュ状の生地です。もともとは春夏を中心に作られていましたが、現在では季節を問わず多彩な色柄が展開されています。
・スーツやジャケット生地
ドラッパーズやホーランド&シェリーなどのスーツ地、ジャケット地も毎シーズン提案されています。シルクにはない表情と、日常使いしやすい丈夫さが魅力です。
ドラッパーズのウールシルクのスーツ生地を使用したセッテピエゲ
ドラッパーズの4プライとウールカシミヤの生地を使用したセッテピエゲ
今ではセッテピエゲという言葉も、クラシックな洋服がお好きな方には広く知られるようになりました。しかし、最初から日本で受け入れられたわけではありません。
タイユアタイが東京に店を構えたのは1996年。当時の日本では、現在のようにクラシックなイタリアンスタイルが広く知られていたわけではなく、セッテピエゲのようなネクタイは、さらに特殊な存在でした。
芯地がなく、柔らかく、手縫いによるわずかな不均一さを備えた仕上がりは、今でこそ「味」として受け入れられますが、当時はその魅力が伝わるまでに時間を要しました。
実際、加賀氏ご自身も、東京に店を構えてから最初の5年ほどは、セッテピエゲがなかなか受け入れられなかったと振り返っています。それでも魅力を伝え続け、約10年を経て取り扱い店が増える中で、ようやく広く認められるようになっていきました。
セッテピエゲが日本でひとつのネクタイのスタイルとして根づくまでには、それだけの時間が必要でした。
洋服屋を続けておりますと、毎シーズンとても多くの商品と出会います。新しいブランドや流行が次々と現れる中で、長く扱い続けられるものは決して多くありません。
それでもアットヴァンヌッチだけは、創業以来変わらず選び続けています。仕入れるだけでなく、私自身が日常的に使い続けていることも、その理由のひとつです。
年に2回の展示会で新作を見るたびに、今なお欲しいと思えるものに出会います。20年以上見続け、使い続けてきてもなお心が動くところに、このネクタイの変わらない魅力があります。
コラボレーションスタイルでは、シーズンテーマや時代の気分、お客様の着こなしを考えながら、本当にご提案したい生地だけを厳選しております。
アットヴァンヌッチは、端正なビジネススーツのためだけのネクタイではありません。むしろ、柔らかく仕立てられたスーツやジャケットに合わせた時、その軽やかさと色気がいっそう引き立ちます。
ネイビーやグレーのスーツはもちろん、ブラウン、ベージュ、グリーンといったジャケットにも自然に馴染み、装い全体に柔らかな奥行きを添えてくれます。
結び方は、あまり神経質に整え過ぎない方がアットヴァンヌッチらしさを感じられます。基本はシンプルなプレーンノットで、セッテピエゲならではの柔らかなボリュームと自然なディンプルを生かします。
時には小剣が少し長くなっても良いと思います。
ネクタイだけを際立たせるのではなく、シャツやジャケットと自然に馴染ませる。そのような力の抜けた着こなしにこそ、このネクタイの魅力がよく表れます。
ビジネスウェアのカジュアル化が進み、毎日ネクタイを締める方は以前より少なくなりました。だからこそ、今選ばれるネクタイには、実用を超えた魅力が求められます。
かつては「必要だから締める」ものだったネクタイも、今では「締めたいから締める」ものになりつつあります。必要ではなくなった今だからこそ、本当に気に入った一本を選びたい。そのようなネクタイこそ、これからの時代にも残っていくのだと思います。
スーツやジャケットを決め、シャツを選び、最後にネクタイを合わせる。その時に「今日はこれを締めたい」と思える一本があるだけで、装いはもっと楽しくなります。
タイユアタイ時代のから20年以上にわたりセッテピエゲを愛用してきましたが、アットヴァンヌッチは今でも「今日はこれを締めたい」と思わせてくれるネクタイです。だからこそ、お客様にも自信を持っておすすめしております。
店頭では、ぜひ実際に手に取り、スーツやジャケットに合わせて首元で結んでみてください。柔らかさ、立体感、そして装いに馴染む独特の空気感を感じていただけるはずです。
コーディネートやメンテナンスについても、私・上原がご相談を承ります。ネクタイが必需品から嗜好品へと変わりつつある今だからこそ、心から締めたいと思える一本を、ぜひ見つけていただきたいと思います。
COLLABORATION STYLE 上原祥意